探索者/ジャック・マクデヴィッド
- 作者: ジャック・マクデヴィッド,John Harris,金子浩
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/10/23
- メディア: 単行本
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いきなり「雪崩発生→スキー小屋直撃→入居者死亡」という、SF要素が全くないプロローグから始まって面食らう。しかし本編に入ると、銀河中に植民惑星が散らばってそれぞれに発展していること、「他の惑星系まで日帰り出張」が当たり前であることなどから、未来社会が舞台になっているのが明らかとなるのだ。入門者にも入りやすいだろうし、マニアも逆に驚くという、結構うまい導入である。
《探索者》調査は非常に淡々と進められ、冒険要素は弱い。アクションもあるにはあるが、正体不明の人物に調査が妨害されるというだけにとどまる。そして本書のシーンはほとんど、チェイスによる地道な調査で占められているのだ。関係者を探してはヒアリングを実行することの繰返しで、調査に赴く場所*1と方法*2を除くと、これはもう完全に「過去の事件」を追うミステリそのものである。また登場人物の会話もある種のミステリを思わせる。知的生命の知性の限界や、学問的発掘と骨董商的発掘の相違点等は、作品テーマには関係するものの、各イベントには直結していない。「ミステリの登場人物の知的な会話」に位置付けがよく似ているのだ。しかし、センス・オブ・ワンダーは、これらの細部にこそ宿る。会話内容、移動方法、調査先そのもの。これらはまさにSFでしか成立しないもので、面白い。特に注目したいのは、作品世界で唯一確認されている異種族知的生命体アシュール人である。彼らの都市でチェイスは調査をおこなうのだが、人類とアシュール人は容貌があまりにも異なり、お互いに生理的嫌悪感を抱いてしまうのだ。おまけにアシュール人にはテレパシー能力があり、チェイスの精神は道を歩くだけで丸裸となってしまうのである。しかしアシュール人は「お互いの考えが丸わかり」の状態がデフォルトなので、人間自体は珍しいし怖いので子供たちは避けこそすれ、チェイスが嫌悪や恐怖を感じているからといって、あからさまな悪意や敵意を返すことはない。また、考えが丸わかりなのに政治家かいたりと、あまり深く語られないが社会体制もなかなか興味深い。
……さて、上の段落で私は「センス・オブ・ワンダーは、これらの細部にこそ宿る」と言ったが、すいませんこれ大嘘です。いや全部が嘘ではないのだが「こそ」が嘘。実は終盤で、《探索者》とマーゴリア探索という物語の幹そのものが、実にSF的な展望を物語にもたらしているのだ。ここは素直に圧倒されて欲しいところ。厳密な考証がおこなわれているわけではなく、ハードSFとは言えまいが、冷静な筆運びによって遠未来の考古学を魅力的に描き出した作品として、素直なSFが読みたい人には強くおすすめしたい。