不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

トロイ・クック/最高の銀行強盗のための47ヶ条

最高の銀行強盗のための47ヶ条 (創元推理文庫)

最高の銀行強盗のための47ヶ条 (創元推理文庫)

 22歳の美女タラ・エバンズは銀行強盗だった。それも9歳の時からである。彼女は父のワイアットと一緒に全米各地を荒らしまわって生活しているのだ。しかし最近ワイアットは凶暴化が進み、自分が定めたルール「最高の銀行強盗のための47ヶ条」にそぐわないようなこともやり始めていた。おまけにタラに近付く男には敵愾心をむき出しにするのだ。このままでは身の破滅、拘束される生活も真っ平御免。そんな折、タラは21歳のマックス・ウィリアムズに出会う。町の保安官を父に持ちながら、不良行為への衝動を抑えられない彼は、一目でタラと恋に落ちたのである……。
 とにかく“Cool!”な小説なのである。
 ラブラブなタラとマックス、狂犬ワイアット、息子への愛情と保安官としての責務に板挟みにされるウィリアムズ保安官、小型レコーダーに自分の考えを録音する小悪党ピート・コレリ、気骨ある獣医のクリスピンなどなど、魅力的かつ個性的な登場人物が目白押しである。そして彼らは、コメディ・タッチで物語を進展させる。彼らは、人間の暗部をむき出しにしつつも、あくまで軽快に疾駆するのである。各人にはいかにも娯楽小説的なキャラ立ちが見られ、文学的な深い読解にはやや向かないが、ゆえに高いリーダビリティが確保されていることも見逃せない。しかも、人間の自由や誇り、それらにかかわる信念を重視する局面も多分に含まれ、決して「バカバカしいほどに軽い」だけの小説ではないのである。
 というわけで、人物の変な言動に笑わせてもらいつつ、一気呵成に読める素晴らしい作品といえる。繰り返す。本書はとにかくクールである。粋だねえ、などと言いたくなるほどだ。この作家が順調に成長すれば、カール・ハイアセンを継げるのではないか。翻訳が既に予定されているという次作にも期待がかかる。