不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ラデク・バボラークと仲間たち

紀尾井ホール:14時〜

  1. テレマン:2つのホルンのための協奏曲 変ホ長調
  2. ツェムリンスキー:狩の音楽(バボラーク編)
  3. モーツァルト:音楽の冗談K.522
  4. ライヒャ:三重奏曲(op.93から8,4,12)
  5. シニガーリア:ホルンと弦楽四重奏のためのロマンツァop.3
  6. ベートーヴェン: 六重奏曲 変ホ長調op.81b
  7. (アンコール)コーガン:シャローム・アレヘム
  8. (アンコール)コーガン:フライラッハ
  • ラデク・バボラーク(ホルン)
  • ヤン・ヴォボジル(ホルン)
  • ロレンツ・ナストゥリカ=ヘルシュコヴィッチ(ヴァイオリン)
  • アイーダ・シャブオヴァ(ヴァイオリン)
  • ヴィルフリート・シュトレーレ(ヴィオラ
  • ハナ・バボラーク=シャブオヴァ(チェロ)

 バボラークうんめえええ!! というのが最大のインパクト。日本のオケの首席奏者どもとは完全に別次元別宇宙。ラデク・バボラークは現在ベルリン・フィルの首席ホルン奏者を務めており、過去にはチェコ・フィルの首席でもあった1976年生まれのチェコ出身のホルン奏者だ。とにかく全曲目、ホルンってこんな音も出せたんだ、いやいやこれホルンの形に見えるけど実はサックスとかだろ嘘つくなよ、といった驚きが目白押しの刺激に満ちた演奏会であった。と言ってももちろんバカテクだけで押しまくる単細胞な音楽だったわけではない。ちゃんと抑揚も抑制も付いた、素晴らしい歌に満ちているのである。曲想に従った情感の描き分けも適切で、じっくり音楽に浸れるのである。これは凄い。また、会場の雰囲気が非常になごやかなものだったのも素晴らしかった。前世紀一、二を争うテクを持っていたヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツは、「自分の演奏会の聴衆は、私のミスを聴き漏らすまいと思って集中しているのではないか」、つまり本当に音楽を聴いているとは言えないのではないかと愚痴をこぼしていたようだが、その種の変な緊張感は、会場にも舞台上にも一切ありませんでした。特に《音楽の冗談》で、バボラークがちょっとした小芝居やってたんですが、それ以降は雰囲気が本当に柔らかくなっていました。天気は生憎でしたが、休日の昼下がりにはちょうどいい。ベートーヴェンで一箇所、バボラークが音をちょっと外してしまったんですけど、そこでチェロ奏者*1がニヤリと笑って、それを見てバボラークも苦笑していた、という光景が印象に残っています。
 というわけでどうしてもバボラークが目立つんですけど、他のメンバーも腕っこきがそろっておりました。ミュンヘン・フィルのコンマスチェコ・フィルのメンバー、ベルリン・フィルのメンバー、そしてもう1本のホルンはチェコ・フィルの現首席ということで、全員非常にうまい。アンサンブルには穴が全くありませんでした。華のあるスター奏者を名無し草たちが盛り立てる、なんて構図ではなく、完全に対等なパートナーとして音楽を交し合う。うん、これぞ室内楽の醍醐味ですよ。

*1:名前と年齢(1975年生まれ)からして、多分バボラークの嫁。