不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

2061年宇宙の旅/アーサー・C・クラーク

2061年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

2061年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

 100歳を超えてなお矍鑠としているフロイド博士は、ハレー彗星への着陸計画に同行する。一方、博士の孫のクリスは木星軌道にいたが、宇宙船がハイジャックされた結果、モノリスによって人類の接近が厳禁されている衛星エウロパに不時着してしまった。フロイド博士は孫たちを救助すべく、エウロパに向かうが……。
 1987年に発表された小説である。前年の1986年はハレー彗星再接近の年だ。そして次回のハレー彗星再接近は2061年であると予想されている。つまり本書はこれに合わせたか、触発されて書かれたのである。SF小説アポロ計画需要は有名だが、ハレー彗星にもそんなことがあったんですなあ。
 内容の方であるが、モノリスの神秘性は後退し、代わりにハレー彗星エウロパ、そして恒星と化した木星(名称はルシファーに代わっている)が思う存分語られている。『2001年』や『2010年』、ついでに先取りして言ってしまうが『3001年』も、舞台は宇宙だったがテーマの中心は一種の文明論・知性論であった。だが『2061年』の主役は間違いなく星々である。太陽系内限定とはいえ、当時の研究成果を取り入れた天体のリアルな描写には迫力があるし、そこに現実にはないルシファーを交えることで、センス・オブ・ワンダーをも満足させる。ここら辺はクラークの独壇場ともいえよう。
 といってもモノリス大明神が何もしないわけはなく、人類が知的好奇心を露わにしないわけもない。総合的には天体巡りの要素が強過ぎるものの、本書もまた《スペース・オデッセイ》の一角を占める一冊であることは間違いのである。