不壊の槍は折られましたが、何か?

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探偵は今夜も憂鬱/樋口有介

探偵は今夜も憂鬱 (創元推理文庫)

探偵は今夜も憂鬱 (創元推理文庫)

 柚木草平は、エステ・クラブの女性オーナーから、義妹に付きまとう男の調査を依頼される。だが間もなく、そのオーナーが殺されてしまった(「雨の憂鬱」)。芸能プロダクションの社長から、失踪した人気女優の行方を追ってくれと依頼されるが、美人マネージャーに翻弄される(「風の憂鬱」)。自由が丘の雑貨店の美人店長から、失踪した夫から突如送られて来た手紙の調査を依頼されるが、今度はその夫の妹が絡んで来て……(「光の憂鬱」)。
 以上3編が入った中編集である。1編約100ページ程度。
 作品のボリュームの影響か、柚木草平の美女に対する精神的フットワークは更に軽くなっている。それは読み口をソフトなものにしているし、気障な科白の数々も、嫌味にならずむしろ微笑ましく受け取ることができる。ここら辺の差配は実に素晴らしい。
 事件内容は、いずれも過去の出来事の残照が強く「今」に影響してしまった、というもので統一されている。まさに「人に歴史あり」。いやしくも人であれば、二十歳を超えると「今」だけでは生きられない。過去からの束縛や不意打ちを受けざるを得ないのである。何とままならないことだろう。それがタイトルにも「憂鬱」という形で表れている。
 というわけで、相変わらず読みやすいし、ストーリーラインを追うだけでも非常に楽しいし、事件関係者の人生を思って感慨に耽ることもできる。最近こればかりだが、やはり広くおすすめしたい作品であり、作家である。