不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

時砂の王/小川一水

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

 西暦248年、不気味な物の怪に襲われた若き女王・卑弥呼を救ったのは、2300年後の未来からやって来た知性体オーヴィル*1だった。その未来に突如現われたETエクストラ・テレストリアルたちによって、人類は危急存亡の淵に立たされていた。おまけにETたちは時間遡行して人類の完全殲滅を狙っているようだった。かくて知性体たちは、滅びの時間枝に属する全ての歴史時間軸の全人類を防衛するという絶望的な時間遡行作戦を開始した。
 わずか250ページちょっとの作品で、読みやすいし登場人物造形もシンプルなのだが、話のスケールは無闇に大きい。全ての歴史分岐において人類を守ろうとする企て(結構失敗してしまう)が素敵である。敵が攻めてくる理由も壮大なもので、尺に似合わず、時間SFとして色々詰め込まれた作品であると思う。
 主要舞台を邪馬台国の時代に設定し、主要登場人物を絞り込むことで、コンパクトにまとめ上げているのは高く評価したい。やろうと思ったらいくらでも爆発させることができるネタで、広くおすすめできるシンプルな娯楽作品に仕上げることの凄さ、素晴らしさ。適度な感傷も実にいいですねえ。

*1:なお彼らに生殖能力はなく、身体能力も抜群に高いが、精神構造および基本的な肉体構造は人類とほぼ同様……と考えて差し支えなさそうである。実際オーヴィルは普通人類の女性と恋愛関係ならびに肉体関係を取り結ぶ。