不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

バッド・チューニング/飯野文彦

バッド・チューニング

バッド・チューニング

 Bワン探偵の私が午前一時に酔っ払ったまま新井薬師近くの自宅に帰って来ると、そこにはピンクサロンで知り合った加奈子の惨殺死体が転がっていた……。
 飛び散る血と汗と精液と愛液と大小便、乱舞する情欲と暴力が、社会の最下層で自堕落な生活を送る登場人物の澱のようなものを我々に伝えてやまない。作者が主人公の置かれた状態を冷静に眺めていること、外出時の町の様子がたまらなく(普通に)リアルであることなども、脇をしっかり締め、物語には着実な感触がある。「狂気」がグロテスクに燻り出され、「暗黒」が疾走する様はまことに素晴らしく、その手際のよさも含め、ジム・トンプソンとの共通性が多々見受けられる。内容はお下劣だが、文章そのものは非常によく練られており、たいへん読みやすい。ホラーじみた展開を多少見せつつも、骨子がミステリそのものであることから、特にノワール・ファンにはたまらない作品となるはずだ。これほどの傑作が埋もれていたことに驚愕の一冊である。