不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ジーヴズの事件簿/P・G・ウッドハウス

 収録作は13を数えるものの、過半が『比類なきジーヴス』として長編に一本化されている。『比類なきジーヴス』を最近読んでいた者としては、同じ話を短期間に2度読むことになり少々残念であったが、まあこれは専ら私個人の都合なのでどうでもいいところだ。
 内容に目を向けると、やはり本当に素晴らしい。伏線とその回収は絶妙におこなわれ、お気楽馬鹿旦那バーティの一人称も愉快愉快。その一方、「バーティ君の変心」で一人称を務めるのはジーヴズであり、彼の腹黒さが顕在化している。更に、本シリーズの原型となった「ガッシー救出作戦」も収められている。馬鹿旦那が事態を紛糾させるのは共通だが、執事がほとんど意味をなさない。これまたファルスで面白く、シリーズのルーツを知るという興味以上に楽しませてもらった。まさに極上の短編集である。入門書として広くおすすめしたい。
 ただし、訳は森村たまきの方が上手か。好みの問題という側面もあろうが、彼女の方がこなれていて、キャラや物語により親しみやすい。