不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

証拠は語る/マイケル・イネス

証拠は語る (海外ミステリGem Collection)

証拠は語る (海外ミステリGem Collection)

 イギリスの大学で、窓から降って来た隕石(大学の倉庫にあった)に潰されて、数学教授が殺される……。新規参入の長崎出版が満を持して送る、イネスの長編推理!
 しかし装丁が非常に安っぽいし、紙も妙に分厚く持ちにくい。正直いただけない。
 とはいえ、訳文はなかなかしっかりしており、作品を楽しむことの障害にはならない。『失われた時間』の直後だっただけに、これだけでも得がたいものと思わされた。作品の出来栄えも上々だ。浮世離れした学者たちによって構成される《大学》という世界が、ユーモアに絡めて描かれる。話の展開も、基本的には正統派本格ミステリの王道に沿いつつ、随所に諧謔を利かせており面白い*1。作者は余裕綽々に構え、細かいながらも恰幅ある筆遣いを見せているので、我々もゆったりと楽しみたい一冊だ。

*1:ミステリというジャンルそのものに何かを突き付けるタイプの《諧謔》でないので、変な期待はしないが吉。