不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

嘲笑う男/レイ・ラッセル

嘲笑う男 (異色作家短篇集)

嘲笑う男 (異色作家短篇集)

 綺麗な起承転結を楽める作品が17編収められており、最初の「サルドニクス」を除けば、事実上のショートショート集である。そしてその「サルドニクス」を含め、いずれも構造が非常にシンプルだが、その分単純な《読む喜び》を感じ取れるのは素晴らしい。後には確かに何も残らない。しかしそれのどこが悪い、という日下三蔵の解説には諸手を挙げて賛同したい。ジャック・リッチーが万遍ない支持を集め、高く評価される昨今、レイ・ラッセルは再評価されるべきではないだろうか。
 個人的には、映画監督と評論家の対立に鮮やかなオチを付ける「モンタージュ」、《おれ》が帰還する「帰還」、銀河系連合の平和と繁栄を維持する活動を描き、ありがちなオチを付けるものの、そのオチの情景がなかなか小粋な「防衛活動」辺りがお気に入り。
 なお、私自身は特に気にならないものの、訳の古さが若干評価に悪影響を与える可能性が今やあると思う。古典的名手としての評価も確立されていないしね。というわけで、未訳短編を新しくどこかで訳してくれませんかね。仁賀克雄の息がかからないところで。