不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

我らが影の声/ジョナサン・キャロル

我らが影の声 (創元推理文庫)

我らが影の声 (創元推理文庫)

 話題を呼んだ演劇『我らが影の声』の原作者だった若手作家ジョゼフ・レノックスには、ワルの兄がいた。兄の名はロス。彼は仲間と共に、様々にジョゼフをからかって遊んでいた。しかしロスは16歳のとき、線路に触れて感電死してしまう。いや実は、自慰をからかわれたジョゼフが突き飛ばしてしまったのだ。時にジョゼフ13歳。……そして24歳になった今、ジョゼフはウィーンに住んでいる。彼はこの古都の映画館で、同じくアメリカ人の夫婦に出会う。快活で手品好きのポール、石鹸の清潔な匂いが印象的な美人インディア。年上の彼らとウィーンで愉快に過ごすジョゼフだったが……。
 何をどうしたらこんな結末を思い付けるのか、いや思い付くならまだしも、そこに至るまでの経緯をかくも綿密に描き込めるのか。ウィーンでの楽しい生活は実に鮮やかに活写され、悲しみも喜びも追憶も、極めてクリアに、緻密に描かれる。そこまでやっておいて、結末のアレ。真剣に頭がおかしいんじゃないかと思います。いやもう最高。
 これ程までに素敵な作家を今までまるで読んでこなかったことを、深く恥じるものである。まとめ読みすると死んでしまうような気がするので、ちびちび進める予定。でも結構品切れしてるんだよなあ……。