不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ヴェサリウスの柩/麻見和史

ヴェサリウスの柩

ヴェサリウスの柩

 天下の国立大学・東都大学医学部の園部教授率いる研究室で、院生のための解剖実習をやっていると、遺体の中から不思議なチューブが発見される。そこには園部教授を中傷する詩が込められていた。助手の千紗都は、動揺する教授を見かねて調査を開始するが……。
 最初の100ページ程度はリーダビリティも抜群、基本はサスペンスながら、死体にまつわる怪奇な雰囲気も漂い、キャラクターも癖のある人も多いなど、なかなか奇矯で面白い。しかしその後は物語のバランスが明らかにおかしくなり、筋立てもキャラ造形もゴタゴタしたままラストに倒れ込む(雪崩込むではない)のは残念であった。島田荘司は「磨けばよく光る筋」と主張し、作品としては駄作なれど、確かに作家としての潜在力はないわけでもなさそうなので、次作以降が勝負となろう。