不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シャドウ/道尾秀介

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

 小学五年生の我茂凰介の母・咲江が死んだ。父・洋一郎との二人暮しが始まる。その数日後、洋一郎の学生時代の友人、水城徹・恵夫妻(娘の亜紀は凰介の友人でもある)の様子がおかしくなってくる……。
 非常に完成度を誇るミステリで、視点が交錯しつつも読みやすいのは本当に素晴らしい。そして真相を隠すテクニックも堂に入っており、多くの読者が気持ちよく騙されることになるはずだ。サスペンス・タッチのストーリー展開もなかなかに面白く、生/死、正常/異常など、諸テーマも見事に消化されている。各視点は各視点で安定しているのも良い。『向日葵の咲かない夏』で感じた「最初のうちは乗れない読者もいるだろうなあ」「子供の視点に付いて行けない人もいるかも知れないなあ」という弱点*1も、『シャドウ』では見事に克服されている。ミステリ・フロンティアではまず間違いなく5指に入る出来栄えで、しかもその性質上、今回は遠慮なく、幅広い層にお薦めできる。むろん、傑作である。
 ……やはり『背の眼』『骸の爪』は読んでおかねばなるまい。と、これは個人的メモ。

*1:個人的には弱点とは考えていないが、そう思う人も出て来ると予想した、ということ。