毒杯の囀り/ポール・ドハティー
- 作者: ポール・ドハティー,古賀弥生
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/09/30
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (20件) を見る
アセルスタンとクラスタン卿のコンビが読者を楽しませてくれる。アセルスタンは基本的に真面目キャラで、宗教家としてどのような姿勢で世に臨むべきかと悩む。しかし教区の美しい未亡人に想いを寄せてしまい、ときに嫉妬に身を焦がすなどなかなか可愛い。一方のジョン卿は、やるときはやる、気のいい愛妻家なのだが、とにかく酒が大好き。この作品の中でもずっと飲んでおり(取り調べの最中も飲みまくり)、何回か吐きさえする。衛生観念が発達していなかったロンドン市中の描写と相俟って、なかなか味わい深いことになっております。そして二人の掛け合いもまた、ときに漫才、ときに真面目に(事件ばかりか人生さえ語る)と、ヴァリエーションもあって、作品を引っ張る原動力となっている。
ミステリとしては、それほど手が込んでいるわけでもないし、意外性の演出も控えめ。国政レベルの陰謀もあるにはあるのだがそれほど大規模ではなく、燃えない。ただし、登場人物各人はなかなかに活き活きと描かれている。エドワード3世崩御直後の世相を描く、歴史ものの良質なエンターテインメントだ。そういうものが好きな方にはお薦めしたい。