レベル3/ジャック・フィニイ
- 作者: ジャックフィニイ,Jack Finney,福島正実
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 単行本
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短編集『レベル3』にも、そのような短編が多数収められている。駅のあり得ない階に昔の駅を発見する「レベル3」、よく考えると同種の行動を違った二つの短編として作品化した「おかしな隣人」と「こわい」、事象が時間に関係しないだけで実は同種の逃避である「失踪人名簿」、逃避するのは登場人物ではなく作家自身(とはいえ、個人レベルの憧憬による逃避ではない)という「世界最初のパイロット」辺りがそれに該当する。
しかし、フィニイは単にそれだけの作家ではない。もちろん。
時間軸絡みの話で懐旧に彩られつつ落着点がいつもと微妙に異なる「第二のチャンス」は、それでもまだなお懐旧話である。しかし、幽霊譚である「潮時」、克己辛苦して作成したメモが風に飛ばされて大変なことになる「死人のポケットの中には」辺りには、後ろ向き気味・回顧気味ではあるが、人生への皮肉と優しい視線が感じられる。そして「雲のなかにいるもの」と「青春を少々」は、若い男女の出会いの物語で、ユーモアと甘さが素晴らしい。特に後者のラストでの作者の言葉は、胸に深々と突き刺さった。現実の人生を小説の中に持って行くんですかそうですか。
アイデアと雰囲気を両立させる腕は確かな作家。寡作なのもむべなるかな。というわけで、お薦めです。