不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

モンキー・ハウスへようこそ/カート・ヴォネガット・ジュニア

 ヴォネガットの短編集。文庫だと二分冊ですが、私はハードカバーで読みました。
 22編もの作品が収録されており、ヴォネガットにどっぷり浸かることができる。SF(シチュエーションも様々)あり普通小説あり恋愛小説ありで、バラエティに富んでいる。作品の水準も揃っていて、非常に素晴らしい。皮肉と真心の同居は、ヴォネガット以外ではなかなか見かけないが、それをたっぷり味わうことができる。まさに極上のひととき。
 どれも良いのだが、個人的には、アマチュアの名優にまつわる「こんどはだれに?」、性的快感を人工的に排除する時代におけるセックスの素晴らしさを説く表題作、普通の恋愛小説「永遠への長い道」、GE社勤務経験があることを知って読むと大変興味深いし《ほら話》が出て来るまでの経緯も楽しい「ほら話、トム・エジソン」、非常にヴォネガットらしいSF「バーンハウス効果に関する報告書」、サラリーマンの哀愁を描く「構内の鹿」(ボーモントの「鹿狩り」辺りと比べると非常に興味深い。私はヴォネガットの方が好きです)、子息の受験結果を見に行く「嘘」、衝突事故?を起こして亡くなったアメリカとソ連の宇宙飛行士の親族が書簡を交わす「人間ミサイル」辺りが印象的であった。
 これ位カタログに残しておこうよ。