不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

敵は海賊・海賊課の一日/神林長平

敵は海賊・海賊課の一日 (ハヤカワ文庫JA)

敵は海賊・海賊課の一日 (ハヤカワ文庫JA)

 ラジェンドラは定期点検でピカピカになり、ご機嫌であった。そしてその中、ついうっかり、明日がアプロの666歳の誕生日であることに気付いてしまう。ラテルは嫌な予感がしたが、それは的中し、明日一日、アプロと共に海賊課苦情処理係勤務を命じられた。そして翌日、ラテルが命令どおり苦情に対応していると、過去から叔父が通報してくる。ラテル一家を屠った海賊を捜してくれというのだ……!
 ラテルがなぜかくも海賊を憎むのか、理由の一端が明らかになると共に、それが昇華する物語。誕生日ということでアプロが弾けている横で。
 物語の舞台は、主に海賊課の基地に限定され、ラテル自身の事件という側面も強い。ヨウメイの介入も表面化せず、海賊サイドに物語の視点が置かれることはほとんどない。これらの点では若干異色だが、一人と一匹と一艦の息はピッタリ(?)だし、SF的な要素もしっかりと仕込まれている。海賊課の他の面々も活き活きと描かれ、彼らのキャラ立ちはいつも以上。だいいち読んでいて楽しい。広くお薦めできる作品と言えるだろう。