死角に消えた殺人者/天藤真
死角に消えた殺人者―天藤真推理小説全集〈8〉 (創元推理文庫)
- 作者: 天藤真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/05
- メディア: 文庫
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フェアレディが銚子の崖から転落。中からは四人の遺体が発見された。しかしこの死者たちは、生前、特に関係はおろか面識もなさそうなのだ。では彼らはなぜ一緒に転落死する羽目になったのか? 警察の捜査は膠着状態に陥る。一方、被害者の栄養士・塩月まつ江の娘、塩月令子は、母親がよくわからない奴らと怪しい死に方をした(=母親の身持ちを疑われた)ため、他の被害者の遺族から冷たい視線を浴び、しかも恋人からは見捨てられてしまう。この逆境下、令子は、片親きりで自分を育ててくれた母の敵を討つため、事件の謎を解こうとするのだった……。
正直、令子が恋人に振られたのは、母子家庭・母親の身持ち云々も多少はあろうけれど、付き合ってから1年は経っていると思われるのに、セクースはおろかディープキスさえ許さなかった*1のが主因ではないかと思われてならない。しかしあんまり言っていると地雷を踏むわけで(もう踏んでいるか)、潔癖性の糾弾はここら辺でやめておきたい。
例によって、凝った設定・堅牢な構成をまとったミステリ、かつ一見温かいタッチでありながら、実は人間模様を色々と曝け出すよく練られた小説となっている。令子の苦悩と苦闘は序盤からストレートに打ち出されており、誰が人間的に信用できるのかという、ミステリにおけるサスペンスとはまた性格の異なる緊張感が物語に横溢する。そして一応ハッピーエンドなんだが、口に残るのは苦味なんだよなあ。
それにしても、作品のアベレージが全く下がらない。水準も鉄壁の安定性を誇る。天藤真、恐るべし。
*1:しかも単なるキスでも「いけないわ」と一旦拒否。30年前とはいっても流石にこれはダメなんじゃないかと思うのだが、いかがでしょうか。