不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

愚行録/貫井徳郎

愚行録

愚行録

 基本的にQ&AのAだけで構成される物語。何不自由なく暮らしていたと思われる家族が皆殺しにされる。果たして彼らに何があったのか、被害者の知人たちの話を通じて、色々とこの家族(というか夫婦)の嫌な面が語られてゆく……。一方、「お兄ちゃん」と呼び掛けてくる女が喋る章が挟まれて……。
 題名どおり、愚行録。とにかく人間の醜い一面を強調してやまない作品。実に素晴らしい。ミステリ的な仕掛けはそれほど目覚しくないと思われるが、水準を十分越えている。だいいち、読んでいるだけでストレスが溜まるような、最悪の人間模様を心行くまで楽しめるのだ。嫉妬やルサンチマン、そして他人を蔑視して自らの立ち位置を保持する卑しい情念がここには渦巻いている。これだけで傑作の名に値しよう。これこそまさに人間である。幅広い層に読んでもらい、是非この不快感を覚えて欲しい一冊。