不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

本覚坊遺文/井上靖

本覚坊遺文 (講談社文庫)

本覚坊遺文 (講談社文庫)

 千利休に深く傾倒していた弟子、本覚坊の回顧録の形で綴られる、利休、織部、宗二らの茶の世界。
 利休そして侘茶の全てがここにあると錯覚しかけるほどの傑作。秀吉による賜死を、利休はなぜ黙って受け入れたのか。ポイントはそこにあるが、同時にそこにもない。ここで触れられるテーマは間違いなく利休の全貌だが、あまり直接的に語られることはない。かと言って決して回りくどくもない。文章、情感、ストーリー、全てが常に簡素かつ淡白だ。だがしかし、言葉そのものには置換できない何かをも、作者は極めて明瞭に打ち出すのである。凄いとしか言いようがない。正直ちょっと呆然。
 ひょっとすると、私は、日本人だから、『本覚坊遺文』を以上のように理解したのかもしれない。外国人であれば、さてどのように理解するのだろうか。ちょっと見てみたい気もする。