キリンヤガ/マイク・レズニック
- 作者: マイクレズニック,Mike Resnick,内田昌之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1999/05
- メディア: 文庫
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逆子で生まれた赤ん坊は悪魔だから殺す。双子で生まれた場合はどちらか一方を殺す。老人で病に倒れた者は、ハイエナの巣の前に連れて行って放置。猟をするのはキクユ族の仕事ではないから、子供たちがハイエナに食い殺されても*1、ハイエナを狩ってはいけない。白人文明のもたらす薬や治療法も全て拒否。ムンドゥムグになるのは男に限られ、女は知識を得てはならないため、聡明な少女の「色々なことが知りたい」という知的好奇心も圧殺。親は老いたら息子の世話にならねばならず、従って別居している親子が出たら、ムンドゥムグのキリンヤガ環境管理権を行使して、ンガイの怒りを現すため、〈保全局〉に日照りを指示する……。
我々の倫理観では到底付いて行けない思想体系であり、かつムンドゥムグたるコリバは、変化一切を断固拒絶する。状況だけ考えれば、実に酷い挿話が連発される。しかし、この作品は色々なことを考えさせられる傑作だ。
全ては、地球においては白人文明によって、完膚なきまでに破壊されたキクユ族独自の文化を今度こそ守るためにおこなわれる。確かに白人出現以前のサバンナでの生活はこのようなものだったわけで、原点回帰を志向すれば、こうならざるを得ないのだろう。コリバという男、実際に友人になるのは(あまりもウザイので)御免蒙りたいが、民族・文化のアイデンティティーを復活させたいという切なる求めは非常に理解できる。というか正直胸に迫るものさえある。コリバ自身は、ヨーロッパで学位を取ったインテリ層であり、彼の息子は地球のケニヤで高級官僚をやっている、という設定も物語に奥行きをもたらしている。
そしてこれが最大の魅力なのだが、キクユ族固有(とコリバが主張する)の思想体系は、サバンナに関する神話を通し、《寓話は出したから、テーマとか教訓とかは自分で考えなさい》という感じで投げ出される。物語に独特の感興を与えており、実に素晴らしい。
読みやすいこともあり、是非色々な人に読んで欲しい作品。
*1:ライオンや象などが既に絶滅しているので、このキリンヤガでの最強の肉食獣はハイエナであり、数が増えてしまっている、という設定。