不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ミス・ブランディッシの蘭/ハドリー・チェイス

ミス・ブランディッシの蘭 (創元推理文庫)

ミス・ブランディッシの蘭 (創元推理文庫)

 美貌の富豪令嬢ミス・ブランディッシを誘拐したギャング、ライリー一味。しかし彼女を横取りしようと、別のギャング団が強襲をかける……。やがて、当のお嬢様の父親である富豪ジョンは、娘が帰って来ないのを見て生存を諦め、犯人一味を探し出して欲しい旨、私立探偵ヘイニーに依頼するのだった。
 《性と倒錯と非情》などと謳われると、どんな酷い話かと一面期待してしまう。しかし、それほどでもないというか、実はもっとやれたが途中で抑えた、という感じに仕上がっている。非情で乾いた筆致が、ちんぴらギャングの頭が悪くて根性が腐った、しかしだからこそ救いがたい様子を、ある種の哀愁をもってクリアに演出する。ミス・ブランディッシの悲惨さに敢えてそれほど筆を割かない辺り、作者わかってるなあ、という感じ。
 いずれにせよ、『ミス・ブランディッシの蘭』はデビュー作であるし、今後も色々読んでいきたい作家ではある。繰り返すが、この作家ならもっとできるはずだ。