不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺人が少女を大人にする/ローレンス・オリオール

 「姦通って、なんのこと?」「男色家ってなんのこと?」などと別荘近くの浜辺でパパに尋ねたソフィ・バタイユ(8)は、近所の老婦人に父子共々文句を言われる。しかしソフィは水が怖くて泳いで遊べない。それでなくとも、別荘での生活に色男が闖入してきて、パパもママも、彼らの友人夫婦もソフィの相手をしてくれないのである。退屈だ。つまらない。憂さの余り眠れなくなったソフィは、夜こっそり浜辺へ行く。しかし、そこで当の色男が殺されるところに出くわしてしまった! 殺人者は、なんとソフィの大好きなあの人ではないか。その人を捕まえさせるわけにはいかない。これは喋れない……!
 ソフィが犯罪に巻き込まれて大ピンチ、という要素があったりなかったりするが、話の肝は8歳児が大人を振り回す(刑事込み)展開と、洗練されてどこか冷たい筆致、そしてチラチラ顔を見せる人間の暗黒面である。ソフィの、餓鬼なんだけれど妙に達観した、冷たい描写が非常に印象的。プロットも比較的よくまとまっており、結構楽しんだ。佳作サスペンスと言えるだろう。
 ただし、以下は蛇足だが、看板に偽りありで、事件を通してソフィは特段の成長を見せない。非常に残念。『荒野の恋』と比較して《桜庭一樹は恋愛を通して大人になりつつある少女を描いたが、ローレンス・オリオールは殺人を通して少女の成長を描くという、ミステリならではの手法を用いて意地を見せた》とか何とかやりたかったのだが、世の中そううまくは行かんということだろう。