不壊の槍は折られましたが、何か?

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魔王の足跡/ノーマン・ベロウ

魔王の足跡 世界探偵小説全集 (43)

魔王の足跡 世界探偵小説全集 (43)

 妻が出て行く等で都会に疲れたグレゴリー・クッシングは、田舎町ウィンチャムに住む叔父、ジェイク・ポプルウェルの許に身を寄せる。叔父が田舎でひっそりと隠者のように生活していると思っていたグレゴリーは、しかし、教養高いが言動が粗野、そして隙を見ては酒場で酔い痴れる叔父の実態を見て、後悔し始めるのであった……。そして雪が積もったある朝、グレゴリーは不思議な足跡を発見する。そして行き着く先には死体があった。どうやら100年前にも似たような足跡が出現したらしいのだが、一体この足跡の正体は何なのだろうか。名警部カロラス・スミスは捜査を開始する。
 とても楽しく読めた作品。
 オカルト趣味はかなりスッキリとした形で打ち出される。《祟りじゃー。祟りじゃー》と喚き散らす狂信者タイプのオカルト狂が出て来ない。出て来るのは、オカルトに否定的な人とも議論が噛み合う頭良さげなキャラであり、怪奇趣味が打ち出されつつも、理知的な印象さえ受け、たいへん好印象であった。なお他のキャラも、端的ではあるが要領良く描出され、物語を阻害しないと同時に、読者としてもイメージを浮かべやすい。人間の深いところを抉る人間ドラマを期待する(というか、小説とはそうでなければならないと狂信する)勢力以外には、これで十分だろう。
 そして足跡の謎! 魅力的な謎だと思います。非常に素晴らしい。解法もよく整理されているし、ネタもシンプルで良い。二階堂黎人が日記で指摘していた、《現代ではちょっと難しい》ことは残念ながら間違いないけれど……。
 全体的に、黄金期本格ミステリのあの雰囲気が漂っているので、ノーマン・ベロウ、色々とわかってるのは間違いない。読みやすいし、海外の古典を読んでいようが読んでいまいが、本格ファンなら試してみて良いのではないか。黄金期本格が好きな人には、普通にお薦めしたいと思う。