不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アクアポリスQ/津原泰水

アクアポリスQ

アクアポリスQ

 何か色々あったらしくて(天変地異か戦争かはたまた?)日本政府が崩壊し、代わりに統治府が治めている日本。そのQ市沖合に、数多のチューブで岩盤と繋がれた巨大人工島《アクアポリス》が浮かんでいた。そこでは万オーダーの住民が暮らしている。
 その一員である高校生タイチ少年の前に、女性《J》が現れる。彼女は自らを「アクアポリスの設計者」と明かし、「アクアポリスの守護者」を自称する。彼女はアクアポリスに危機が迫っているとして、タイチに「お前は濡女を見たはずだ」と言い、協力を求めるのであった……。
 近未来SFのような骨格を保持しつつ、濡女や牛鬼、それに風水じみたレトリックなど、東洋的な要素を思わせぶりに織り込んでいる作品。恐らく《設定》を相当細部まで詰めてから書かれていると思しいが、津原泰水の筆は文章表現*1に注力してしまい、《設定》それ自体を前面に押し出すことがない。あまりにも端正な文章は、ビルトゥングスロマン、冒険、SF、その他の要素をあまりにも洗練させ過ぎてしまう。消化不良ではないものの、個人的には少々物足りなかった。長さを倍にすれば違う結果になったかもしれない。
 というわけで、津原泰水ファンが、衰えぬその洗練された作風を愛でるべき作品。

*1:決して難解・重厚ではないが、華麗ではあると思う。