不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

スタンド・バイ・ミー/スティーヴン・キング

 スティーヴン・キングはこれまで『IT』しか読んでいなかったが、先頃、丁度良い機会に恵まれたので、読んでみた。
 「スタンド・バイ・ミー」。とある作家が少年時代を振り返る。彼にはよくつるんでいた仲間が数名いたのだが、その内の一人が、彼の兄貴とその友人の話を盗み聞きし、徒歩数時間かかるところに行方不明の少年の死体があることを知る。彼は自分の友人たち一緒に、その死体を見に行き、第一発見者としての名声を得ようと考えた。主人公たちも同調し、彼らは一路、少年の死体を目指し歩き始める。
 「マンハッタンの奇譚クラブ」。とある作家が、知り合いから、ある奇妙なクラブに誘われた。そこでは夜な夜な、クラブ員たちによって奇妙な物語が語られる。また、備品類も、一件まともだがよく見ると怪しさ満点。その何とも言いがたい風情が癖となり、主人公はクラブによく行くようになる。それから何年か後のクリスマス・シーズンに、年老いた産婦人科医がクラブで奇妙な話を始める……。
 所収の2編はいずれも《普通の小説》とされるが、実際には割と変だ。特に死の扱いがオーソドックスではない。「スタンド・バイ・ミー」の場合、道中の印象的なエピソード(頭の良い主人公に対する友人たちのコンプレックス、主人公が友人たちに構想中の物語を語るシーン、鹿が登場する情景の美しさ等々)はとても少年時代の逸話らしくって良いのだが、《死体を見に行く》という奇妙な最終目標が設定されているので、どうもそのまま頭の中に入って来てくれず、物語には終始、背徳感が忍び込んでいる。文体も全体的にぶよぶよしているし、後日譚も無駄にブラック。少年時代の微妙さや青臭さ、情景の美しさ、懐かしさはよく出ており、そのことが逆に、変な小説であることを一層引き立てている。「マンハッタンの奇譚クラブ」も、シングルマザーたらんとする気丈な女性のエピソードが、いきなり不気味かつ不思議なラストを迎えてしまう。怪しげな高級クラブも、モヤモヤしたまま放置。
 ことほど左様に変な二本立てであり、共通して言えることは、それなりに収束する物語でありながら、爽快感やカタルシスがほとんどないということである。おぼろげに覚えている『IT』の感想とも矛盾しないので、この感覚こそがキングの個性ではないかと仮説を立てておく。他の作品読んで、あっさり取り下げることになるんだろうけど、何だか癖になりそうなことを告白しておきたい。