不壊の槍は折られましたが、何か?

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鏡地獄/江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)
 言わずと知れた傑作である。もちろん、完全球体の鏡の中に入って発狂することは、ほとんどの人間にとってあり得ないことだろう。しかし、ミラーハウスでのあの異様な感覚はよく出ているような気がするし、そもそも、鏡・硝子に魅入られた男の病膏肓に入った、狂気とさえ呼べる拘りは、それを雰囲気たっぷりに描出する乱歩の筆致と相俟って、一読忘れがたい読後感を読者に与える。乱歩の名を知る者であれば、必読だろう。