不壊の槍は折られましたが、何か?

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金塊船消ゆ/多島斗志之

金塊船消ゆ (講談社文庫)

金塊船消ゆ (講談社文庫)

 旧日本軍がフィリピン近くで金塊を載せた船を自沈させたものの、戦後、アメリカ軍等が目印どおりに探しても何も見つからなかったのでした。……という話を、戦後40年経って蒸し返す話。
 多島斗志之らしく、ケレン漲るネタを使用しつつ、小説作りそのものは極めて堅牢。きっちりと《意外な真相》を提示してくる、という表現が似つかわしいが、よく考えるとこれって矛盾してもおかしくないわけで、凄いことをあっさりやっているなあと感心。筆致が淡白なのは相変わらずだが、ストーリー自体に色々起きるので楽しめる。なお、主要登場人物に老人が多く、ちょっとした《お爺ちゃん頑張っちゃうぞ》大会の様相を呈す。これが枯れた文体で描出される様は、なかなかに印象的である。
 というわけで、お薦め。古本屋で見かけたら買っておきましょうとしか言えないのが悔しい。