血液魚雷/町井登志夫
- 作者: 町井登志夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/09/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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展開は極めて常道を行く。SF要素は、高性能医療機器および変な寄生虫という点に限られ、変なものを発見したときの医者の驚き、患者の焦り、そして某医者にも(以下略)、そして臨死体験*1という展開も極めてまっとうに作り込まれている。全般に可もなく不可もなしだが、この病原体に対する治療法にSF要素混ぜても良かったんじゃないか。医者を小さくして体内に突撃して破壊なら、《単純な破壊》とはとても言えないが、高性能医療機器(無茶な原理を使っているわけではない)を見ながら普通の機器を使って破壊しに行くだけ、というのには失望した。はっきり言えば、もうちょっと変な治療法を出して欲しかったわけですよ。テーマ性から考えて、病原体に完全勝利する必要は確かにないが、その方法が大失敗に終わってもいいので、最低一回は登場人物の誰かが閃きを見せて欲しかった……。
さて本作は《このミス大賞落選!》を売りにしている。『バトルロワイアル』は作品の水準というよりむしろその倫理が問われて落選した経緯があるので、問題提起(=選考委員の倫理観は選考基準になり得るのか?)の意味合いから《ホラー大賞落選!》を惹句にする意義はあったと思う。しかし『血液魚雷』の場合、確かに商業出版の水準には達しており、世に出て来ても何ら問題ないのだが、本作落選をもって《このミス大賞》に何らかの問いかけが為せるかというと大いに疑問である。
*1:作品テーマに絡む幻影を見ることは言うまでもない。