不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

魔術師を探せ!/ランドル・ギャレット

魔術師を探せ! (ハヤカワ・ミステリ文庫 52-2)

魔術師を探せ! (ハヤカワ・ミステリ文庫 52-2)

 待望の復刊である。『探せ!』なのか『捜せ!』なのかはっきりさせてもらいたい。
 ……という誤植はともかく、内容は非常に素晴らしい。歴史改変SF(ファンタジー?)であり、それらしい雰囲気を見事に構築している。英仏帝国とポーランド王国がゲルマン諸邦を挟んで対峙する世界情勢。魔法が使われる一方、科学技術はそれほどでもない。もちろんスチームパンクではないが、醸し出される質感は類似している。貴族制が強固に機能しており*1、民主主義どころか絶対王政さえ通過せず、社会の基本構造は封建体制のままであるかのような印象を受けた。
 以上の確固たる基盤を確保したうえで、作者はネタをばっちり仕込んでくる。純粋に本格ミステリとして見た場合でも、良い出来栄えと考える。そして登場人物も印象的に描かれており、間然とするところがない。これらが前述の独特な作品世界と相俟って、充実した読書体験をもたらすのである。傑作。読みやすいし、いつまた絶版になるかわかったもんじゃないし、今のうちに買っておくことをお薦めする。
 ……本当は『魔術師は多すぎる』も復刊してもらいたいのですが……。

*1:登場人物はほぼ全員貴族であるばかりか、有閑階級というわけでは全くなく、実際に国家運営のため粉骨砕身。