不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

リスクテイカー/川端裕人

リスクテイカー (文春文庫)

リスクテイカー (文春文庫)

 『夏のロケット』同様、いやそれ以上の情報量を持った小説である。作者は、マネーゲームと、それを通して自己実現を図る人々をスケール豊かに描出しようとする。その表現意欲は極めて強い。そしてそればかりではなく、マネーそのものに対する思索をも追求することにより、おっさんが読みがちな経済小説ではなく、一編の勇壮なエンタメ小説として素晴らしい出来栄えを見せている。取材結果の報告だけではなく、《川端裕人が言いたいこと》の手数も単純に多いので、構成要素はてんこ盛り、密度・濃度も高い。傑作と言っても構わないように思った。
 さはさりながら、個人的に経済云々はロケットよりは興味がなく、『夏のロケット』の方がナチュラルに楽しめたかなあ、という気がしないでもない。