不壊の槍は折られましたが、何か?

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老ヴォールの惑星/小川一水

 小川一水初読。収録全編、示されるヴィジョンはいずれもどこかで見た、ありがちでさえある単純なSFとなっている。しかし人間に対する(というか、主人公サイドに対する)極めて力強い肯定が、小川一水の個性を際立たせる。
 一番印象的なのは「漂った男」で、星新一風のシチュエーション下、登場人物に対する豊かな肉付けを行って、読み応え十分な作品に仕上げている。先述の「力強さ」も結局はこの短編が一番強いのではないだろうか。
 一方SFとして最高得点なのは「幸せになる箱庭」で、ファーストコンタクトものに付き物のコミニュケーション云々を素通りし、それとは違うテーマに持って行くのは少々意外だった。とはいえ、持って行った先も《SFにはよくあるテーマ》なので、この作品も結局、主人公の生き方に対する人間賛歌が特徴となる。
 他の二編も基本的には同一路線。「ギャルナフカの迷宮」はまんま人間社会の肯定だし、「老ヴォールの惑星」もストーリーから考えると悲愴感が不思議なくらい薄くそれどころか明媚。そう、これら四編に共通する《明るさ》こそが本書最大の魅力=誰にでも楽しめることを支えている。文章も読みやく、ネタも単純とくれば、SF入門としては非常に適切な一冊となるだろう。手捌きがうまいので、猛者にもお薦めできますが。