不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

渇きの海/アーサー・C・クラーク

 月にあるとされていた(と過去形にしてしまっていいかどうかは微妙だが)塵の海に、観光客乗せたバスが沈んだ場合どうレスキューすればいいのか、というSF。SFとしてスケールが小さいといえば小さいが、元々そんなもん売りにしてないし、こちらの期待も違うところにかけていたので問題なし。緩急付けたプロットの組み立ては実に美しい。登場人物のキャラクターや場面の切り替え、そして事態の変転がよく考えられており、だれない展開でさくさく読める。老嬢の無闇にして場違いな潔癖さなど、機内の人間ドラマも薬味が効いて適度な緊張感が漂い、好ましい。総じて、誰にでもお薦めできる一編と言えるだろう。