不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

QED ~ventus~ 熊野の残照/高田崇史

QED ~ventus~ 熊野の残照 (講談社ノベルス)

QED ~ventus~ 熊野の残照 (講談社ノベルス)

 今回は熊野。歴史に関するネタは例によって例の如くであり意外感は皆無。殺人ネタも非常に素朴だが、歴史ネタと殺人ネタの関連は非常に薄い。いつもと違って、メタファーのレベルでさえ無関係ではないだろうか。しかし全ての構成要素が非常にシンプルであり、全体としても手際よくまとまっている。明らかに不要なもの=「これはけしからん!」と怒り出せるポイントがないので、印象は悪くない。
 また、視点人物が非レギュラー(今回初登場……だと思う)であることも、すっきりとした味わいに貢献する。正直、レギュラーの棚旗奈々はあまりに純粋過ぎ、一々驚いたり(お前は一体何年タタルその他と付き合っているのか)、ガキのような正義感で歴史を見たり(お前は一体何回タタルに権力者のひでえ振る舞いを教えられたのか)して、時々うざい。一方、今回の視点人物は基本的に冷静を保ち、ものの見方が皮肉や邪気に満ちているため、個人的にはたいへん心地良いのである。
 いずれにせよ、結構気に入った。もちろん最高傑作『式の密室』には及ぶべくもないが、ここ三年内の作品であれば一番スマートではないだろうか。ファンにはお薦めです。