不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

カーテンの陰の死/ポール・アルテ

 今回も非常にスマートな不可能犯罪もの。読みやすく、軽妙で、そしてわかりやすい。邦訳四作を鑑みるに、恐らくアルテは作品水準がさほどぶれないタイプの作家だと思われる。が、その中でも『カーテンの陰の死』は上出来の部類かもしれない。交通整理の行き届き度では、本作が随一なのではないだろうか。
 さて、アルテはカーと関連付けられて語られることが未だに多い。しかし思うに、カーとアルテの最大の差異は、スマートなミステリなっているかどうかだ。端的に言って、アルテはお洒落である。常に安心して読める腕の確かさ。アルテは名職人であり、読者としても、ほうほうと言いながら愛でる感覚が強い。だがカーは違う。作品全体に妙な熱気があり、最後まで何が飛び出すか予想できず、そればかりかヘタウマのノリで読み込んでいる自分を発見することが多い。だがそこには間違いなく原初的な熱狂がある。作家としての性質がかなり違うように思われ、同一ベクトル上で語ることはそろそろやめてもいいんじゃないかな、と考えたりするのだった。