不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

氷菓/米澤穂信

Wanderer2005-07-08

(角川文庫版;はまぞう未登録)
 古典部シリーズ第一作。妙なモットーを掲げていたりする楽しいキャラ四名が、廃部寸前の古典部に入部し、学園祭に向けて動き始める。が、33年前の古典部に何があったのかを調べる羽目に……。
 いわゆる《日常の謎》ものであるが、大きな謎を一つポンと設定し、周辺に他の小さな謎をまぶすという構成。この構造に『春期限定いちごタルト事件』との有意差はないのだが、今作も、ネタを詰め込んだ印象や無理矢理ネタ作ったな感がなく、この話の短さを考えるとなかなか有り難いことと思う。一言でいえば、お洒落。
 高校生のキャラ造形もしっかり立ち上がり、特に斜に構えた感じがよく出ている。物語全般から見ても、この時期の人間模様・人格形成と、その間隙をよく表していると思われ、相変わらずとてもうまい。現時点で高校生またはそれに近い諸君には、こういう情感は駄目なのかも知れんが、年老い枝葉末節が忘却の彼方に消え去った人間の中では、宝のようになって来るのですよ。