不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

鬼警部アイアンサンド/ジム・トンプスン

鬼警部アイアンサイド  (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

鬼警部アイアンサイド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 アイアンサンドのことなど本当に全然知らないのだが、ドラマのノベライズと言われると、確かにトンプスンの持ち味たる狂気はかなり抑制されている。ラストなど、これがあのノーワルの神かと呆然とした(決して悪い意味ではないが……)。とはいえ、節々で異様な雰囲気を湛え出すのは面白い。特にアクションのシーンなんか、攻撃側はイッちゃってるとしか思えないのが素晴らしい。明らかに空間歪んでます。
 話自体はとても整理されていて、たいへん読みやすいのは、作家が確かな技術を持っていることを示すものだ。器用だと言いたくなるが、それは私が他のトンプスン作品を知っているからに他ならず、無理してまで読む価値はさすがに認めがたい。比較的気楽に読め、かつ粋な話が読みたければ、お薦めです。