不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

HEARTBEAT/小路幸也

HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)

HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)

 第一部をBoy視点/第二部Girl視点として双方向から男女間の信頼関係を燻り出す。また、年長組(20代)と年少組(10代)に話を分け、前者に回顧的なほろ苦い味わいを、後者に活き活きとした爽やかさを委ねるのも、実にうまい。文章における言葉選びのセンス、登場人物の造形も大変素晴らしく、オチも含めて、感傷的な哀感や、嬉し恥ずかしな情感に徹底奉仕。即ち、ボーイ・ミーツ・ガールに期待される全てがここにある。しかも腐女子方面への配慮さえ十分に為されており、《小奇麗な話》としてはパーフェクト。
 もちろん、《それ以外に何があるのか?》《小路は小奇麗な話しか書けないんじゃないのか?》と問われると厳しい。だが、一人の作家がベストを尽くしそのベクトルにおいて大きな成果を収めた場合、自らの好みを封印するのは読者の義務だと思う。

 ……ミステリとしてはどうだったかって? ごめん、それパス。