不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

弥勒の掌/我孫子武丸

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

 離婚の瀬戸際にあった妻に失踪される教師のパート、妻が殺される悪徳刑事のパート。いずれにも影を落とす宗教団体……。という感じで、『弥勒の掌』はなかなか思わせぶりに進行する。とはいえ物語はとても整理されており、内面描写や台詞回し、地の文の感傷度含め、全ては適切に締められており、余計な浪花節は入らない。そしてラストに至ると、ミステリ的な構成もすっきりしていて無駄がなかったとわかるのである。
 というわけで、我孫子武丸らしい、スマートな作品であったといえるだろう。《あの我孫子武丸の、それも長期の沈黙を破った作品なんだ!》等の妙な思い入れさえなければ、普通に広く薦められる作品である。*1

*1:なお、私は我孫子武丸を特別な作家とは看做しておらず、そういった思い入れはほとんどありませんでした。我孫子って水準の書き手としか思ったことないんですが……。