不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

最後の審判の巨匠/レオ・ペルッツ

最後の審判の巨匠 (晶文社ミステリ)

最後の審判の巨匠 (晶文社ミステリ)

 ミステリの手法を種々採用しながらも、作者自身は決してミステリを書こうとしてない奇書。結末へと至る道程はいずれにせよ壊れ気味で、伏線等々が放棄されまくるが、ひょっとしてその伏線って俺がヲタゆえに勝手に見てしまう妄想なんじゃないかと思えてくる。この感覚は結構久しぶりで、『赤い右手』を連想する人も出て来るだろう*1。ミステリ要素以外では、主人公のダメ男加減がたいへん素晴らしい。トランペット赤等のケレンもたっぷり、非常に充実した読書となった。読後、《俺はひょっとして重要な何かを読み落としてしまったのではないか》と不安に駆られること必定なのも、奇書の奇書たる所以であろうか。
 読者を選ぶだろうが、変な小説が好きな方にはお薦めであります。

*1:『赤い右手』に関しては、私は確信犯説を採りますが……。