不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京都交響楽団

  1. ショスタコーヴィチ交響曲第8番ハ短調Op.65
  • ティーヴン・スローン(指揮)

 当初は前半にショスタコーヴィチ:喜歌劇《モスクワ=チェリョームシキ》op.105より組曲(コナール編)が演奏されるはずだった。しかし、3月17日に逝去した音楽監督ベルティーニ(形式的には3月一杯までが任期だった由)を追悼する意味を込め、割愛された。チケット代も半額に(後で返金してくれるらしい)。かの曲は実演録音通じて未聴なのだが、プログラムを読むと、どうも明るい曲らしく、時機に合わないと判断されたようだ。
 さて、実際の演奏だが、これが非常に良い演奏となった。都響は弦・木管金管いずれも絶好調でほとんど瑕なし。更に全曲通して非常に集中力が高く、一点一画疎かにしない。こうなると客としては、この曲の重みを噛み締めるしかありません。あえて不満を抱くとすれば、スケルツォ等のリズムが平坂だったことか。でも《リズムだけで様になる》ことできないのは、日本オケの多くに共通にする問題(というか特徴)だけに、あまり言い立てたくない。
 この《やる気》に満ちた演奏の功績は、やはり第一にオケ自体に帰せられるべきかと思う。退任が決まっていたとはいえ、信頼関係は強固なままだった音楽監督の逝去には、さすがに期するものがあったのかもしれない。終演後、コンマス矢部達哉)の目が潤んでいたのは、気のせいかな。一方、指揮者はというと、ちょっと判断が難しい。確かにオケの各パートを聴き分けやすく整理したのは賞賛に値するので、悪い指揮者ではないと確信している。しかし、今日の演奏会は雰囲気がちょっと特殊であり、スローンという指揮者の実力については、それ以上の判断が下せないのだ。普通はオーケストラよりも指揮者が印象に残り、演奏自体の成否は指揮者が鍵を握っていることがほとんどだ。しかし今日はちょっと違った。得がたい経験であったと思う。