不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ユージニア/恩田陸

ユージニア

ユージニア

 恩田陸は、途中までは傑作、という作品をよく書く。雰囲気の盛り上げは非常にうまいのだが、盛り上げに盛り上げ、煽りに煽ったたところで、ほとんどの場合、話がグダグダになる。その後の物語は気息奄々、やっと最後のページに辿り着いたところで、力尽きたように終わる。構成感が希薄なのもしばしば致命的。しかも恩田陸が煽るのは、話の背後で蠢くものへの期待なのである。必然的に、読者は真相への期待を膨らませざるを得ない。しかし彼女は自分の煽りに耐え切れず、自重で崩壊し、《真相》を思わせぶりに仄めかすような態度に終始し、実際は何も言わないで逃げてしまう。なんでこんなことになってしまうのだろうか。
 私見だが、この人は、起承転結を何も決めずに、あるシーンのイメージ、或いはガジェットのイメージだけで書き始めてしまうのではないだろうか。『夏の名残の薔薇』はその最悪の例といえよう。新しい形の多重解決を提案したいのはヒシヒシと伝わって来る。しかし結果は、本格を舐めるなというものでしかない。『Q&A』でも、Q&Aだけで話を進めようと最初に明らかに思い付いているのに、それだけではどうしようもなくて、語りはうまいから勘弁して、という感じで、書き始めに課していたであろう《縛り》を、なし崩しにした例である。
 昔は、「まあこの人もたくさん仕事しているからな。その内、落ち着いてじっくりと傑作をものしてくれるに違いない」と思って許容していたのだが、デビューしてかなり経つ今、恩田陸はそれでもなお仕事量を落とさず、起承転結がグズグズな作品を濫造している。もはや好きでやっているとしか思えず、私などは不快感を覚えるのだった。

 と罵倒しておいて何だが、『ユージニア』は珍しく、書き始める前か、書き始めてかなり早い段階で、落し所を決定したと思しい作品である。もちろん、竹を割ったような真相はこの作家に期待すべくもない。しかし語りのうまいこの作家であれば、真相にこの程度の確度と構築性があれば、読者を満足させることができる。逆に、この程度の曖昧さが、作品に独特の香りを付けており、むしろ好ましいとさえ言えるだろう。
 作者自身はこの作品をターニングポイントとしているらしい。その言葉を結局は信じ、好意的に受け止めてしまう俺の負けである。