ユージニア/恩田陸
- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/02/03
- メディア: 単行本
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私見だが、この人は、起承転結を何も決めずに、あるシーンのイメージ、或いはガジェットのイメージだけで書き始めてしまうのではないだろうか。『夏の名残の薔薇』はその最悪の例といえよう。新しい形の多重解決を提案したいのはヒシヒシと伝わって来る。しかし結果は、本格を舐めるなというものでしかない。『Q&A』でも、Q&Aだけで話を進めようと最初に明らかに思い付いているのに、それだけではどうしようもなくて、語りはうまいから勘弁して、という感じで、書き始めに課していたであろう《縛り》を、なし崩しにした例である。
昔は、「まあこの人もたくさん仕事しているからな。その内、落ち着いてじっくりと傑作をものしてくれるに違いない」と思って許容していたのだが、デビューしてかなり経つ今、恩田陸はそれでもなお仕事量を落とさず、起承転結がグズグズな作品を濫造している。もはや好きでやっているとしか思えず、私などは不快感を覚えるのだった。
と罵倒しておいて何だが、『ユージニア』は珍しく、書き始める前か、書き始めてかなり早い段階で、落し所を決定したと思しい作品である。もちろん、竹を割ったような真相はこの作家に期待すべくもない。しかし語りのうまいこの作家であれば、真相にこの程度の確度と構築性があれば、読者を満足させることができる。逆に、この程度の曖昧さが、作品に独特の香りを付けており、むしろ好ましいとさえ言えるだろう。
作者自身はこの作品をターニングポイントとしているらしい。その言葉を結局は信じ、好意的に受け止めてしまう俺の負けである。