不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

最後の一壜/スタンリイ・エリン

最後の一壜 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最後の一壜 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 エリン最新の、そして恐らく最後になるであろう(ガセでごぜえやした……)短編集。相変わらずアベレージがとても高く、実に素晴らしいひと時が過ごせる。とはいえ、『特別料理』『九時から五時までの男』で見せた、異常な切り口で「ぞっとさせる」面は後退しており、代わりに、練達の名手の小品が陳列された画廊のような、落ち着いた印象を与える。心温まる話も少なくない。いい意味で丸くなり老成した作家の姿……と言ってしまっていいのだろうか? もちろんそこはエリン、狂気や皮肉はそこかしこに潜んでいるわけで、油断するべきではない。
 水準が揃っており、いずれもエリンの味がするので、好き嫌いでさえチョイスすることは困難を極めるが、個人的には、ラストで思わず考えさせられる表題作かな。