不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

世間との温度差

 数ヶ月前のことになるが、山下公園で長髪のキモい親爺が犯人捕縛に失敗するあの警察小説を読んだ時、私は正直苛立ちを隠し切れなかった。罵詈雑言を極めながら焚書坑儒したい気分に駆られたものだ。しかし、どうも世間一般の評価だとそうではないようだ。某年末ベスト企画だと一位になってしまうし、知り合いの中でも、直接聞いただけで、畜生と心中する人と、神保町勤務の人が絶賛。二人とも、小説については一家言持つ人々であり、私を不安に陥らせるには十分なメンツだ。私があれ以上にぶち切れた作品は今年は他になく、かほど極端な反応を示したということは、私の見識(プ)の根幹に抵触したということだろう。その方向性が世間とずれているということは、この私は生まれてからこの方培ってきたその根源において世間とずれているということだ。私が読んでいたものは、感じていたものは、一体何だったのだろう?