リピート/乾くるみ
- 作者: 乾くるみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/10/23
- メディア: 単行本
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環境設定のSF上の詰めの甘さは Science Fiction と言うよりは、Science Fantasy とでも言うべきソフト路線である。科学的・哲学的・衒学的な考察は皆無に近い。ミステリ作家で言えば西澤保彦や山口雅也のような、《独特な世界設定》そのものを掘り下げようという気概が薄いのである。というわけで、これだったら、もっと爽やかだったり、甘かったり、酸っぱかったりしてもおかしくない。しかし乾くるみは(恐らく意地悪く)登場人物に苛烈な現実を強いる。それも妙に日常臭や生活臭に溢れた。戻れる時間が短いという事情もあるかもしれないが、それ以上に、お前ら俺は《世界》を作りましたぜ、という熱気に欠けるのである。「とりあえずイヤ〜な話を考え付いたから、それを元に変な設定にしといたよ。でも設定そのものに特に拘りないけど」という感じ。このヌケヌケとした感覚が、この作家の特徴ではないか。西澤や山口なら、この《世界》の注釈と活写を、力み返って鮮やかに繰り出すんだろうなあ……。
この手の話であれば、西澤保彦が遥かにスリリングに仕上げてくれたと思う。登場人物の情念が凄い勢いで渦巻いたはず。……しかし。このラストの虚無感は、西澤保彦では出せないのではないか。西澤ならば、このラストは哀愁を漂わせていたような気がする。しかし乾くるみにとって、このラストに情感は夾雑物なのだ。告白しよう。私も乾くるみと同意見だ。この物語に感傷や情念は邪魔だ。特にそのラストでは。
というわけで、乾くるみファンにはお薦め。ファンじゃないけど興味があるという人には『イニシエーション・ラブ』の方がいいかも。