不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

魔術師/ジェフリー・ディーヴァー

魔術師 (イリュージョニスト)

魔術師 (イリュージョニスト)

 徹頭徹尾エンターテインメントの大傑作。ほぼ全身不随の《名探偵》と、奇術トリックを多用する連続殺人鬼の《怪人》が対決する設定を、ものの見事に活かし切って、大部の長編を一気に読ませる。ケレンを利かせた手に汗握る互角の勝負! このモチーフは、やはりこうでなくては。
 もちろん作者は、そこに独自の意匠を凝らすことも忘れていない。トリックや推理だけではなく、科学捜査の要素をぶち込んで、背後に綿密な取材があることを絶妙に証し、《良い意味で手が込んでいる》という印象を読者に与えるのは、毎度のことながら見事なお手並みである。また今回は《師弟関係》もクローズアップされており、マジシャンの師弟関係を明らかな主題として扱っている。これ自体は特に印象的でもないのだが、それをライムとサックスに符合させてシリーズ読者を煽る、作家としてのテクニックには恐れ入るばかり。
 一部にマンネリ化が囁かれたこのシリーズだが、今回は見事以上に持ち直したのではないか。普通に傑作だからなこれ。娯楽小説に飢えている人に強力推薦。