不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

真夜中の神話/真保裕一

真夜中の神話

真夜中の神話

 吸血鬼伝説に絡め、インドネシアの奥地における《奇跡の歌声》をネタにした物語。表紙が写真であると気付くのにしばらくかかった。
 最近の真保裕一は、倫理/正しいことを賢しげに主張し、かつその倫理が《勝ってしまう》ことが多く、正直辟易していた。しかしこの作品は(その傾向がないわけではないが)それほど気にせず読めた。SFミステリだからかな。或いは、機械文明とは切れた世界で生活する村人たちが、重要な役割を果たすからであろうか。
 個人的な好みをいえば、村人たちが善人ばかりなのは残念である。誰か内通した方が面白かったと思うし、悪を繰り出すなら繰り出すで、もっと掘り下げるべきだ。特にそいつが信念をもっている場合。
 まあ一応楽しめたので良しとするか。