不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

方舟は冬の国へ/西澤保彦

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

 愛し合う家族を装って、ひと夏を別荘で過ごすことになった和人、《栄子》、《玲衣奈》。オムニバス形式で、和人と《栄子》の人生のエピソードを解いてゆく話かと思いきや……。とまあ、変な展開をするであろうことは予想範囲内。冒頭から気配ムンムンだし。しかし正直、このオチには驚いた。西澤保彦が、この話にこういう結末をつけるなんて! あとがきで「おそらく一生のあいだ、もう二度とできない『はじけ方』」と自称するだけのことはある。しかしこの程度で恥ずかしいとは、いやはや全く西澤保彦って、いい感じで偽善者および偽悪者なんですなあ。もう二度となんて言わず、何回かやってほしいと思う。反抗期の温存も無論いいのですが、作風の幅は担保するに越したことないし。

 作品の出来だが、悪くない。ガジェットは多ジャンルに及ぶが、それらは飽くまで彩りにとどまり、物語自体の軸はぶれない。その軸である偽装家族の絆は、徐々に深まってゆく様が見事に描写される。例によって悪意も絡むが、今回は悪というより超絶のDQNという感じであり、戯画化されているため軽く読める。拒否感のあった人でも大丈夫ではないか。
 センチメンタル系の良書であると思う。広くお薦めしたい。