不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

イニシエーション・ラブ/乾くるみ

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

イニシエーション・ラブ (ミステリー・リーグ)

 最初の数十ページは鬱・鬱・鬱だった。とにかくこの主人公が私だとしか思えない合コンに行ったコミュニケーション不全のキモヲタ、でもプライドだけは十分。最悪であり、眼を覆いたくなる。自己嫌悪をない交ぜにしつつ進める読書は、移入も出来るしスピードは速いが、決して楽しくない。
 もっとも、それは長くは続かなかった。主人公はこの合コンを契機に、かわいい恋人を得る。当然ながらこれ以降、主人公は私とはまったく違う人種となる。よって私は、自分のダメさを開陳されたような鬱の気分からは脱することができた。その後はいつものように、主要登場人物を客観視して読むことが可能となったのだ。冷静に進むことのできる読書というのは、やはり大変安心できるものだと痛感した。やはり読書はこうじゃなくっちゃね!

 ……。

 ミステリとしての仕掛けは、特に可もなく不可もなし。鈍感な読者は気付かずに通り過ぎるかも知れんが、まあそれも一興。変にベッドシーンが長いのと、冷笑的なスタンスが垣間見える点で、乾くるみらしい作品と言える。読みやすい小説ではあるので、特にこだわりなく広く薦められよう。もっとも、私が何か致命的に誤読している可能性も否定できない。だって目次云々が意味不明だったからなあ。