不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

絹靴下殺人事件/A・バークリー

絹靴下殺人事件 (晶文社ミステリ)

絹靴下殺人事件 (晶文社ミステリ)

 『毒入りチョコレート事件』直前の作。他の作品と比べてややシリアス、そしてシェリンガムはじめ素人たちが健気に頑張ってしまう作品。健気な人々を健気に描くなんてバークリーじゃない、などと感情的に言い放つこともできる。しかもこの終幕は、何がやりたかったのか俺にはよくわからん。ミッシングリンクものとしても、魅力が弱いように思う。

 ただ、『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』と対比させた場合、シェリンガムの勝利、つまり名探偵の勝利を色褪せさせる効果があるように思えてならない。名探偵なんてこんな程度のことしかできませんぜ、などと嘯くバークリーの姿を思い浮かべるのは……贔屓の引き倒し、いや単なる電波なんでしょうな。

 ともあれ、バークリーは元来、ベースとなる水準が驚異的に高いだけに、致命的な弱点を作品が抱いていない限り、多少不調でもそれなりに読めてしまう。ファンは必読であろう。